冬の寒さも和らぎ、高田城址公園の桜も咲き始めたこの春爛漫の佳き日に、169名の新入生の皆さんを本学にお迎えし、ご来賓の皆様のご臨席を賜り、入学式を挙行できますことに感謝申し上げます。
新入生の皆さん、本日は、ご入学おめでとうございます。188体育の教職員を代表いたしまして、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。
ここ数年間の出来事を振り返ってみますと、大きな出来事として、188体育感染症の蔓延がありました。昨年にはその感染症も感染法上の五類に移行し、今では、日常生活が戻りつつあります。きっと皆さんも、この地で楽しい大学生活を送ることができるでしょう。とは言いましても、さまざまな地域から、大勢の皆さんが集まっていますので、今しばらくは、感染症にかからないように十分に注意しながら生活をしていただきたいと思います。また、直近では、能登半島を震源とする大きな地震がありました。関係の皆様にはお見舞い申し上げます。こうした大変なときには、他者の親切が本当に身にしみてありがたいなと感じます。互いに助け合う文化が、これからも継続していくことを望みたいと思いますし、私たちもまた、困っている方々を助けることができるように支援や防災の学びを深めていきたいと思います。
さて、本学は教育大学ですので、皆さんは、教員になろうという思いがあって、本学に入学したものと思います。本学は、国立の教育大学や教育学部の中でも高い教員採用率を誇っていますので、皆さんのその思いはかならずや実現されるものと信じています。けれども、教員になるということだけが最終目的であるというのでは少し寂しい気がします。教員になって、その後、どんな教師を目指すのかということも考えていただきたいのです。皆さんが大学を出てそのまま教員になったとすると、その後、定年まで40年ほどにわたって教師を続けることになります。その間、皆さんは、教師としてどのようなキャリアを歩みたいと考えるのでしょうか。皆さんがなりたいと思う理想の教師像はどのようなものでしょうか。若いころは、児童生徒とともに体を動かして活動することはそんなに苦ではないでしょう。しかし、年を重ねると、若者といっしょに体を動かすことがつらい状態になるかもしれません。また、世代間のギャップで児童生徒の気持ちが理解しづらくなるかもしれません。
人間は、自分の体験や知識をとおして様々なことを考えます。若い皆さんは、その歳の学びや体験をベースにして自分の未来を描くことになります。したがって、そんなに先々のことまで考えられないかもしれません。しかし、教員になるということを志したからには、その延長線上にしっかりとした自己のイメージを打ち立てて歩みを進めていただきたいと思います。そのためには、不足している情報は積極的に収集していただきたい。たとえば、教育をテーマにした小説を読んだり、映画を見たりすることもよいでしょう。壺井栄の『二十四の瞳』とか、島崎藤村の『破戒』とか、描かれている時代は古いですが、小説として評価の高い本もありますし、比較的現在に近いところでは、灰谷健次郎の『兎の眼』とか、重松清の短編など、教師と子どもの関係を考えさせる書籍がたくさんあります。
今、学校教育においても、キャリア教育の重要性が主張されています。文部科学省関連の文書の中で「キャリア教育」という言葉が使われたのは、平成11年12月の中央教育審議会の答申が最初です。その後、さまざまな定義が示されていますが、平成23年の中央教育審議会の答申では、次のように定義されています。すなわち、「一人一人の社会的?職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」です。ちなみに、キャリアとは、辞書的な定義として言えば、職業?技能上の経験や経歴のことを指しています。以前には、職業指導や進路指導と呼ばれていたものが、キャリア教育と呼ばれ、小学校段階から必要なものとして学校教育においても強調されているのです。本学では、皆さんは、教師としてのキャリア形成に向けて学習を進めることになります。
比較的現代的な、教育の話題をもう一つ取り上げます。
皆さんは、「子どもの貧困」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。厚生労働省が公表した2019年の「国民生活基礎調査」によれば、日本の18歳未満の子どもの貧困率は13.5%だそうです。この場合の貧困とは、所得の中央値の半分に満たない家庭で暮らす子どもの数を表しており、「相対的貧困」と言われます。そうした子どもが7人に1人の割合でいるということなのです。
皆さんのうちの多くの方は、こうした話を聞いても、「そんなにたくさんの貧しい子どもたちがいるなんて信じられない」という思いを抱くのではないかと思います。なぜなら、多くの場合、そうした子どもたちは、薄汚れたぼろぼろの服を着ているわけではなく、痩せこけているわけでもないからです。
日々の食事もできず、栄養失調状態にあり、衣類をも手に入れられないような貧困は、絶対的貧困と言われます。相対的貧困は、生きるか死ぬかの飢餓状態ではないが、他の人たちと比べて収入や資産が少なく、たとえば、修学旅行に行けないとか、冷蔵庫や洗濯機が買えないとかの貧困のレベルなのです。
OECD(経済協力開発機構)が、加盟国を中心とした37か国の相対的貧困率のランキングを出していますが、G7(先進7カ国)の中で最も相対的貧困率が高いのは、日本なのです。
この相対的貧困は、「見えない貧困」と呼ばれることもあります。見えない理由は、いくつかありますが、いわゆるファストファッションや格安スマホなどによって見た目は普通の若者と変わらないからです。また、貧困家庭であることを子どもたち自身が隠そうとするからです。皆さんが、教壇に立ったときに、そうした子どもたちを支援できるとよいとは思いますが、しかし、その対策は、個人でできる範囲をはるかに超えていますので、社会全体が、あるいは、政策立案に関わる方々が対応策を考えるべき社会問題だと思います。あえてこの場でこうした話題に触れるのは、教師を目指す皆さんに、子どもの置かれている不幸な状態に敏感であってほしいと思うからです。
さて、皆さんがこれから生活するこの上越の地は、とても自然豊かな地域です。冬には、昔よりは積雪が少なくはなりましたが、それでも雪は積もります。雪かきをする必要があるということは大変なことですが、しかし、スノースポーツを楽しむことができます。春になれば、木々が一斉に芽吹きます。春の花々が開花するのを見て、「今年も春が来たな」と、私も含めこの地の住民は強く感じます。今は、桜の花も咲き始めましたから、ぜひ高田城址公園などを訪ねて、桜あるいは夜桜を楽しんでください。
夏になると、湿度が高く暑い日が続きます。この地域はフェーン現象で気温がとくに高くなる日もあります。秋になると、山々が美しい紅葉色に飾られ、その後、雪下ろしの雷と共にまた冬がやってきます。
せっかく上越にいらっしゃったのですから、皆さんも、こうした豊かな自然を味わってみてください。市内には、高田城址公園内に小林古径記念美術館もありますし、日本のスキー発祥の地である金谷山や、上杉謙信の居城のあった春日山もあります。直江津地区には、飼育数日本一のマゼランペンギンがいる上越水族博物館「うみがたり」もありますし、海水浴場もあります。流刑の身となった親鸞聖人が上陸した居多ヶ浜も直江津地区にあります。上越市とお隣の妙高市や糸魚川市には、たくさんのスキー場もあります。山も、里山ばかりではなく、日本百名山に数えられる妙高山や火打山、雨飾山もあります。先ほど私は、「人間は、自分の体験や知識をとおして様々なことを考える」と言いました。自然体験や文化体験もそうした体験の一部です。今後いろいろなことを学び、理解するときの助けになるものと思います。
結びに、本日ご列席いただいたご来賓の方々、遠方よりお越しいただいた保護者の皆様には、厚く御礼申し上げます。また、大学として、新入生の皆さんには、大学での学びと生活を支援することをお誓い申し上げて、告辞といたします。
188体育6年4月5日
国立大学法人 188体育長
林 泰成
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